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Hirofumi Machida

By 20 5 月, 2016 No Comments

「ぼくの楽しい箱庭が広~くなって、さらに HD 化しちゃった!」

 

Hirofumi Machidaなんていうか… 「ぼくの楽しい箱庭が広~くなって、さらに HD 化しちゃった!」

もともと自分が使っていた内部ク ロック(RME 社の Steady Clock)は気に入っていたんです。これをマスターにして AD / DA コンバーターにクロックを供給。中低域が膨らみすぎることもなく、そこそこ「締った」印象の出音です。ただ、ワード・クロック・ジェネレイターにはいつも 興味を持ってはいました。

いろんな機種がありましたね。プロ・オーディオ機器で私の世代的に有名どころでは、 Aardvarkの Aard SyncⅡ、Rosendahl の Nano Syncs や Nano Clock、Apogee 社の Big Ben など。好みは分かれるかも知れないけれど、どれも高い評価を得た優れた製品だと思います。そういったものを「何か一台、入れてみたいな」といつも考えてい たのですが、なんとなく買わずにいたんです。

自分のシステムは世界的なスタジオ・デファクト・スタンダードのものをあえて使わず、ネイティ ヴ・パワーの DAW を複数使えるようにしています。Logic、Cubase、Samplitude、Studio ONEですね。ところが、クアッド・コア CPU のマシンにて、たとえ UAD-2 などの DSP ボードを使用していても、ミックスの最後のほうでは CPU パワーをほぼ使い切る状態になることが多い。そこで、もう一台ずつ、マスター・レコーダー用に PC とオーディオ・インターフェイスを用意することにしたんです。

マルチ役の DAW の方は 48kHz 以上のサンプル・レートで動いていて、マスター側は CD 制作用なら44.1kHz。さらにそこに他の ADC が加わったり。ワード・クロックを受けられる機材が増えてシステムも複雑化してきたし、今こそクロック・ジェネレーターを試したら楽しいぞ! そこでチョ イスしたのが、マルチ・サンプル・レート、マルチ出力、64 Bit DSP の Antelope Isochrone Trinity でした。

私 が一番おもしろいと思ったのは、一気に全部変わることでしょうか。なんというか、オーディオ・インターフェイスとかそういうサウンドの質の要になるものを 違うものに取り換えた…というと大げさかつ違う方向性の話になるかも知れませんが、そのくらいの驚きがありましたよ。10M でルビジウム・クロックを入れてやると顕著ですが、質感的には(誤解をおそれず擬音で表すと)ピシッぃとした折り目正しい感じと言いますか、より焦点の 合った、良い意味でちょっと硬い印象になる。だからと言ってローが物足りないかと言えば、ぜんぜんそんなことないんですね。焦点が合ってより見えやすくな ります。柔らかさがないかと言えばそんなこともなく、ナチュラルかつ分離も量感も良く感じ、「あ、アナログの音に近づいたかな?」とそんな風に思いまし た。それは自分にとって好みの方向の変化。これは楽しい、と。

OCX と Trinity でまた印象が違います。Trinity の方は、音場がより拡がって感じます。特に左右の拡がりですね。定位決め、それから AutoPan や拡げものの設定が楽しい。音を置きやすいし、シビアにも出来る。

ル ビジウム・クロックを入れた Trinity をシステムに組み込んだ環境では、プラグインの効きがわかりやすくなる印象を持ちました。EQ をいじってみると、音場の裏側からにゅ~っと手を突っ込んで、指で直に音をつまんで削ったり、にょろ~んと伸ばしているような、そういう感覚を味わえまし た。アナログ・シミュレート系のプラグインも、それぞれの特徴がより鮮明になる気がして新鮮だし、迷いが減る印象。

例えば、バンドものでマ ルチ録音したドラムキット。スネアにハットがいくらかかぶっている。いつもなら「スネアは真ん中か、気持ち少しだけ横に置きたい。ハットはもっとどっちか のサイド寄りに置きたい。EQ でハットのかぶりを少し削るか、ディエッサー使うか、または他の工夫なんかで…とにかくスネアと同じところで鳴ってるハットなど金物の音を地味にした い」となるところ。このセッション・ファイル、すでにバランスもとってプラグインもけっこう使っている状態で、途中からルビジウム& Trinity を入れてみました。そうしたら「あら、ほぼこのまんまでかっこいいじゃん。スネアとハットなどの鋭さがより軸が揃う感じで、なにも邪魔モノのいない、程良 い隙間を、天井まで抜けていく。新しい面白いパーカッションみたいでかっちょええ」。楽しい体験ができました。

箱の中に砂や人形や建物・乗 り物などのいろいろな要素・材料を、ただ好きなように置いていく、「箱庭療法」と呼ばれる心理療法があります。非言語的なセラピーなんですが、これが面白 いんです。音楽づくりや音を配置していく行為って、箱庭づくり、箱庭療法に似ているなってときどき思うんですよ(笑)それで、初めてルビジウ ム+Trinity を入れて音をいじったとき、なんていうか、こう思ったんです。

「あ、ぼくの楽しい不思議な箱庭が広~くなって、なおかつ HD 化しちゃった…!」。

こ れらのインプレッションは確かに個人の感想ではあります。あるレベル以上のモニター・システム、部屋鳴りの調整なども含め自分が良いと思うモニター環境を 構築してから、「もうこれでよし。これでやっていく」となっているところに、クロック・ジェネレイターを加えた感想でもあります。そうして、クロックで音 が変わるのがデジタル・オーディオの面白さであるのは、本当だと感じます。良いモニター・システムと、微細な違いまで聴き分けるリスニング習慣があるなら ば、ルビジウムやマスター・クロックで音はけっこう変わって聴こえると思います。 ですから曲によって 他社製Clock、Trinity 単体、Trinity+ルビジウム、という感じで切り替えてやればいいと思いますね。今のところルビジウム+Trinity、入れっぱなしですが。

最 後に Antelope 社の製品に興味を持ったきっかけを書いておきましょう。きっかけは、今年、とあるアメリカ在住の楽器商の方と交わしたメールのやり取りでした。某社のク ロック・ジェネレイターについて質問をしたところ、「それじゃなくて Antelope の方がいいですよ。こっちでは入ってないところの方が珍しい」という返信をいただいたのでした。確かに私の好きなアメリカのプロデューサーやエンジニアさ んの作業場には、10M と他のAntelope のクロック・ジェネレイターが鎮座しているのを写真で見て知ってはいました。実際に使ってみて、「ああ、なるほど、あの人たちが使うわけだ」と思いました ね。

Profile ◆

町田裕史 Hirofumi Machida

info@st-jupiter.com

中学生の頃から都内ライヴハウスなどで活動。

Three Nipples On Her Handとして90年代にアルバム『Operation Sunflower』が密かな話題に。

カセットMTRを使用した宅録の趣の強い盤であったが、一部の音楽誌で絶賛される。

(のちにクラウン・レコードよりメジャー・リイシュー。)

活動の場を関西にも広げ、フォーク・ミュージック、プログレ、グラム、アンビエント、テクノ・アプローチ、独自の詩の世界が特徴的と評される。

2000年頃より、自宅の録音スタジオにていろいろなインディー・アーティストのCD制作なども行う。

エンジニアとして関わったバンド「俺はこんなもんじゃない」に、ベース&声etcで参加。

都内、関西、米・SXSWフェスティバルなど、多数のライヴ・パフォーマンス。

2012年9月、8年間在籍した「俺こん」を脱退。次なる展開が待たれる。

俺はこんなもんじゃない『Epitonic』(録音・ミックス・マスタリング)

はかまだ卓『伝説』(ミックスなど)

チキリカ『BooBoo』(ミックス・マスタリング)

俺はこんなもんじゃない『2』『OWKMJ』(マスタリングなど)

タラチネ『桃源郷』(録音・ミックス・マスタリング)

など

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